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ハッセルを捨てたフォトグラファー

プロカメラマンや写真のことを少しでも理解できる人なら、このショッキングなタイトルに「エッ〜〜!?」となり、「なぜ?」とその訳をきっと知りたがるだろう。 彼はボクの古い友人であり先輩のことで、その潔さに少々惚れ込んでいるので少し言わせて欲しい。フォトグラファー、写真家、カメラマン、地域おこしプロデューサー、ライフスタイルプロデューサー、ソウルフード&ローフード研究家、琉球古典焼研究家、国土交通省観光カリスマ、地域おこし伝道師…etc. と肩書きを並べたらもちろん両手では足りないが、60代半ばを過ぎた初老のおっさんだ。

 彼の名前は性は「今井」、名は輝く光と書いて「輝光/テルミツ」。まさにカメラマンになるためのような名前だ。世間的には「テリー今井」「テリーさん」で通っている。事実、若い頃は日本最大手化粧品企業でカメラマンとして活動経験があり、若くして独立後はボクも様々な仕事を一緒にさせてもらった。

 最近、彼はスマホを使った撮影教室を営んでいる。「テリー今井の熟成写真教室」で、毎回複数人の参加者たちに撮影の奥深さを伝えているのだ。彼とは「感性」と「今何をすべきか」いう点で、たくさんの共通点がある。おそらくほんの少し先を見ている景色が共通していると話の中でいつも感じるのだ。

 そんな彼と一緒に仕事をして来て節目節目で時代の移り変わりを感じてきたことがいくつかある。ボクが自分で企画した雑誌の商談でヨーロッパ出張から帰ってきた時、テリーさんにお土産を渡しに彼のスタジオに顔をだした時、エディトリアルの仕事で取材撮影に行くと外出しようとした時、あまりの機材の少なさに驚き尋ねると、「印刷の時は紙面でサービス版より小さくなるから、これで十分だよ…」と当時発売したばかりで、巷で話題になっていた「CANONオートボーイ」というオートフォーカス機能とオートワインダー(自動フィルム送り機能)のついたいわゆる高性能「バカチョンカメラ」の説明をしてくれたのだ。

 当時の商業カメラマンはもちろん依頼された撮影内容で異なるが、概ねブローニーサイズ2眼レフカメラのボディ2、3台、フィルムマガジン4〜6つ、35mmサイズのカメラ機械式、電池式のボディ3、4台とレンズが8本程度のほか、三脚、アームスタンド類などの撮影用機材をゼロハリーバートンのような大型ケース4つほどに詰め込んで撮影に臨むのが主流の時代に、その画期的な「CANONオートボーイ」の出現は次世代感が強烈に漂っていた…。

 時代的にはスタジオヴォイスというタブロイド版のカルチャーマガジンに泉麻人さんがコラムニストとして寄稿し、流行通信というファッション業界紙がトレンドを牽引していた。桑原茂一さん、小林克也さん、後に伊武雅人さんが加わるユニット、スネークマンショーが席巻し世はニューウェーブ一色。YMOとのコラボアルバム「増殖」が出て、その名が全国に知れ渡っていた頃だ。

 テリーさんに撮影依頼をして、ボクもデザイナーとしてアートディレクターとして当然撮影に立ち会うのだがブローニーサイズ、いわゆる6×6、6×7、6×9サイズの撮影時は、彼はボクが当時大好きだったハッセルブラッドで撮影に臨んでくれる。ハッセルの何が好きだったかと言えば、やはり、「ガポシャッ、ガポシャッ、」というその独特なシャッター音だった。そして、シャッターを切った後、フィルムを巻き上げる時のリズミカルな一連のアクションも、35mm撮影にはない動作で、それがことのほか結構好きだった…。

 そんな時代の移り変わりを共に感じて来た彼だが、つい最近、ボク私のなにげない「そう言えば、テリさんハッセルは?」の問いに「あぁ〜、だいぶ前に処分した」とあっさり言ってのけたのだから驚いた。彼曰く、今はこの「スマホの画角16:9の世界にどっぷりはまっているんだ…。」と意味深に語った。しかも、レンズなどの重要な機能面の詳細を確認する為にメーカーにしつこく問い合わせるほどの熱の入れようだ。その時、ボクは35年前のあの時の次世代感を強烈に感じた「CANONオートボーイ」の時と同じ感覚を感じたのだ。

 今は、SNSツールが当たり前のように存在していて、誰もが楽しく写真を共有できるので、どうすれば、人の心に刺さる写真を投稿できるかが、シェアやフォローの要となっている…。だがしかし、これはまったく私の個人的な意見なのだが、ボクは人のランチやディナーに何を食べたかの投稿を見ていちいち一喜一憂するほど時間もないし、そんなことよりも、ほかに最近何やってるかなぁとか、今度はどんな情報をアップしてくれるのかと、少しだけ期待している人だって何人かいる。そういう気になる人のことを想い合うことができるのはSNSだとも思っている。でも、それが今の時代であり、みんなが美味しいとかキレイと感じた料理を撮影して「ほらこんなに美味しそう…」と、まだ一度も会ってもいない人にまで見て欲しいものなのだと、百歩下がって無理やり納得するようにしているわけなのだ(笑)…。

 それならばである…。スマホで人の心を打つ撮影ができるようになればいいと思うのだが、世に出回っているカルチャースクールでは、作品の感度やセンスはその人のライフスタイルやマインドが大きく作品に出るということ、つまり根っこのところを学べるところが、あまりにも少ないのは極めて残念でならない…。世のブロガーやウェブライター達も、言っていることや行動はとても素晴らしいのだが、唯一彼らの伝える手段であろうはずのSNSツールに投稿する写真がこれまたあまりにもお粗末なのは、見ていて非常にバランスが悪く、しっくりこない…。もったいない…とでもいうべきか…。

 彼のスマホ作品は主宰する「Terry’s House/東京・福岡・沖縄」のFacebookページで見れるし作品展なども定期的に催している。一度、よく写真と向き合って、自分の感性で後世に残る写真を撮りたいと願っているならば、ぜひテリー今井の「熟成写真教室」で学ぶことをお勧めしたい。仕事で沖縄、福岡、東京を飛び回っている初老のおっさんは極めて多忙だが、写真を通じて参加者に語る一言一言や、彼のフォトマインドがハートに語りかけてくる「感度」は、他では決して体験できない「学び」がきっとあるはずだ。

アートディレクター、メディアプランナー、広報コンサルタント

白木一誠(Issey Shiraki)

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